狸がくる蕎麦屋

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従弟がタヌキの来る手打ち蕎麦屋に連れていってくれた。
山あいにポツンとある蕎麦屋の窓から見る景色は、のどかで広々としていてなんだかふんわりした気分になる。
うーん、蕎麦も景色に見合って美味しい。
店主にタヌキのことを聞いてみた。
「朝の6時頃に玄関の前に来て、餌をくれるのを待ってます。毎日来て、ちょこんと座って待っている姿は可愛いですよ」蕎麦屋には、ノラ猫も三匹毎日来るそうだけれど、「ノラ猫は警戒心が強く、ご飯をあげても、人間が近くにいる間は決して食べません」と言った。
タヌキ、見たいなあ…。
今度は早朝の6時に来てみるかな…。

紙のカエル

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冷房のきいた部屋にばかりいたせいか風邪をひいた。医者に行くと待合室には五人ぐらい人がいた。
八十ぐらいの男の人が、なにやら作っていて、見ていると、出来上がった紙の蛙を飛ばして見せた。
「面白いですね」と言うと、「こうやって競争させるんだ」と指で弾いた。
私の番になったので診察室にいくと、喉が腫れてますね、と言われた。
待合室に戻ると、蛙老人は、あげるよ、と蛙をくれて帰って行った。
会計が済むまで、蛙飛ばしで遊んでいると、五歳ぐらいの女の子が寄ってきて、キラキラした瞳で紙の蛙を見ている。そして「ほしい…」とつぶやいたので、もちろんあげた。
「すみません、すごく気にいったみたいで」とその女の子のお母さんが恐縮していた。
なんだか優しい空気に包まれた待合室になった。
でも病院なのだ。二人ともどこが悪かったのだろう。それは聞かずじまい。
病人の筈なのに、三人とも笑顔だったなあ…。

長い叱り

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喫茶店に行くと、いつもの怒鳴り声が聞えてきた。
喫茶店から五十メートルぐらい離れた家から聞こえてくる。
二年前から始まったそうで、お母さんが子供を叱っているのだが、その声があまりにも大きく、近所では評判なのだそうだ。
小学二年生の男の子を叱っている。
”あんたの両親はテレビなんだね! いいよね、テレビはリモコンで好きなように動くし!””あんたにはお母さんが何を考えているか、考えたこともないんだろ!”””何考えて生きてんだかわかんないあんたはもううちの子じゃない!もう出て行ってください!”などなど、延々と怒鳴り続けるのだ。ここの家族は五人だそうだけど、他の誰の声も聞こえてこない。
”なんとか言ったらどうななの!口があるんだろ!””いつも黙りこくって親をなんだと思ってんだ!””理由を言え! なんであんたはいつも黙りこくってんだよ! 言わなきゃ出て行ってもらうからね!””その態度は出て行きたいんだね!”すると、少年の声がやっと一言聞こえてきた。”お母さんは言っても聞いてくれないだろ!”少年の声は涙声だった。しかしお母さんは”そうだね、私ってひとの話聞かないね”などと言うはずもなく、”親にむかってよくも言える! ”とまた怒りだす。
この喫茶店であの家の怒鳴り声は年中聞いているけれど、少年の声は二度しか聞いたことがない。今日の”お母さんは言っても聞いてくれないから!”というのと、何か月か前、ずっと怒り狂ってひとりしゃべりつづける母に、”もういいよ!”と言った声だけ。
察するに、少年のほうが大人なのではないだろうか。
お母さんの方が幼稚で、子供に愛されていないような不安から叫ぶのでは…
次々に飛び出すセリフに、聞き耳を立てている私でさえ突っ込みをいれたくなる。なのに無言で何時間もの怒鳴り声に耐えている少年はきっと精神が大人だ。
素敵な青年に成長してほしい。 
 




馬里邑れいの本

馬里邑れいのオフィシャルブログ。馬里邑れいのプロフィールと日記、馬里邑れいによるオリジナル小説の投稿など。

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